「自分でやった方が早い」
そう思う場面って、ありますよね。
部下に任せた資料を見て、少しだけ違和感がある。
言い回しが甘い。数字の見せ方も少し弱い。
このまま出しても大きな事故にはならないけど、
たぶん自分が直した方が早い。
で、夜にこっそり直す。
翌朝、部下にはこう言うんです。
「少しだけ整えておいたよ」
優しさのつもりです。
責めたいわけじゃない。
むしろ、助けている感覚に近い。
でも、これが何度も続くと、少しずつ会社の形が変わっていきます。
部下は、最後は上司が直してくれると思う。
管理職は、最後は幹部が拾ってくれると思う。
幹部は、最後は社長が決めてくれると思う。
そして社長は、また夜に一人で抱える。
頑張る人ほど、周りを助けます。
ただ、その助け方によっては、
周りを依存させてしまうことがあります。
ここが難しいところなんですよね。
本人は、悪いことをしているつもりがないんです。
むしろ責任感がある。
現場を止めたくない。
お客様に迷惑をかけたくない。
部下を責めたくもない。
だから拾う。
だから直す。
だから先回りする。
でも、そのたびに本当は、誰かが経験するはずだった判断の機会が
消えていることがあります。
中小企業では、特にこれが起きやすいです。
社長が優秀だと、会社は助かります。
営業もできる。数字も見られる。人のことも気づく。
現場の細かい違和感にもすぐ反応できる。
最初は、それが会社の強みになります。
でも、あるところから、その強みが会社の天井になります。
社長が見ないと不安。
社長が入らないと決まらない。
社長が直さないと品質が上がらない。
こうなると、会社は社長の能力で回っているようで、
実は社長の能力に縛られています。
これは管理職でも同じです。
できる管理職ほど、部下の穴を埋めるのがうまい。
会議前に資料を直す。
お客様への返信を整える。
トラブルになりそうな空気を先に消す。
部下が迷う前に、答えを出してあげる。
そのおかげで、チームは一見うまく回ります。
でも、ふと気づくと、部下があまり考えなくなっている。
相談は来るけど、提案は来ない。
確認は来るけど、判断は持ってこない。
「どうしたらいいですか」が増えて、「私はこう思います」が減っていく。
これ、部下の主体性だけの問題ではないんです。
上に立つ人が、考える余地を先に奪っていることがあります。
もちろん、任せっぱなしが正解ではありません。
まだ力が足りない人に全部渡せば、事故になります。
お客様にも迷惑がかかる。
会社の信用も落ちる。
だから見る必要はある。
支える必要もある。
でも、見ることと、奪うことは違います。
本当に人を育てる人は、全部を直しません。
少し待ちます。
少し考えさせます。
ときには、あえて未完成のまま本人に返します。
「ここ、どう見えてる?」
「この数字を見た相手は、何を感じると思う?」
「自分なら、どこを一番先に直す?」
面倒です。
正直、自分で直した方が早いです。
でも、その面倒な時間の中でしか、人は育たないんですよね。
頑張る人が怖いのは、仕事を抱えることではありません。
抱えた仕事を、いつの間にか“自分の存在価値”にしてしまうことです。
自分がいないと回らない。
自分が見ているから品質が保たれる。
自分が拾っているからチームが崩れない。
そう思える状態は、少し安心します。
必要とされている感じもある。
でも、そこに長くいると、会社も自分も苦しくなります。
なぜなら、周りが育たないから。
そして、自分も抜けられないからです。
オーナー思考の人は、ここで見方を変えます。
「自分が拾うべきか」ではなく、
「次から誰が拾えるようにするか」を考える。
「今きれいに直すか」ではなく、
「本人が次に自分で気づけるようにするには何を渡すか」を考える。
この違いです。
会社を強くするのは、社長や管理職の頑張りそのものではありません。
その頑張りを、仕組みや判断基準に変えられるかどうかです。
社長が毎回直していた資料を、誰でも確認できる型にする。
管理職が毎回判断していたことを、現場で決められる基準にする。
幹部が毎回拾っていたトラブルを、最初から起きにくい流れに変える。
そこまでできたとき、頑張りは初めて会社の資産になります。
逆に、毎回自分が拾って終わるなら、それは資産になりません。
その人の体力を使って、今日をしのいでいるだけです。
それでも、拾ってしまう日もあります。
現場はきれいごとだけでは回らないからです。
急ぎの案件もある。失敗できない場面もある。
自分が入った方がいい日も、もちろんあります。
でも、そのあとに一つだけ見てほしいんです。
これは、次も自分が拾う仕事なのか。
それとも、次までに誰かが拾える形に変える仕事なのか。
この問いを持てる人は、ただの頑張る人で終わりません。
会社を育てる人になります。
あなたが最近こっそり拾った仕事は、
本当にあなたが拾い続けるべき仕事でしたか。
それとも、誰かが育つ機会を、静かに奪っていた仕事でしたか?
世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。