「何でも言ってね」

いい言葉ですよね。
やさしいし、開いてる感じもする。
社長がそう言ってくれる会社って、
一見すごく風通しがよさそうに見える。

でも、現場にいると分かるんです。
その言葉がある会社ほど、
案外、何も上がってこなかったりする。

あれ、不思議ですよね。

社長はちゃんと聞く姿勢を見せている。
壁をつくらないようにしている。
距離も近い。
なのに、本当に重たい話ほど最後まで上がってこない。

なぜか。

みんな、分かってるからです。
社長に言うって、ただ話すことじゃないって。

社長にひと言伝える。
それだけで、空気が動く。
人が動く。
優先順位が変わる。
場合によっては、その人の見られ方まで変わる。
だから、社員にとって社長へ何かを上げるって、
そんなに軽いことじゃない。

社長は雑談のつもりでも、
社員は雑談として受け取れないことがあるんですよね。

「最近どう?」
「何か困ってない?」
「気になることあったら言ってよ」

本人は気さくなつもり。
でも言われた側は、一瞬で頭が回る。

どこまで言うべきか。
言ったら面倒になるか。
誰かに伝わるか。
自分が余計なことを言う人に見えないか。
結局、あたりさわりのない返事になる。

「大丈夫です」
「特にないです」
「みんな頑張ってくれてます」

こういう会社、ありますよね。
表面は穏やか。
でも、本当に痛いところだけがずっと上に来ない。

社長が悪い人なわけじゃないんです。
むしろ逆。
ちゃんと見ようとしている。
近づこうとしている。
でも、近づき方が少し雑なんです。

ここ、すごく大きい。

本音って、
正面から「何でも言って」と言われるほど出にくいんですよね。
特に、まだ言葉になり切っていない違和感ほどそうです。

何か変だな。
ちょっと無理が出てるな。
あの進め方、このままだとまずいかも。
でも、そこまで大ごとにするほどでもない。
自分の感じすぎかもしれない。
そういう段階のものって、意外と大事なんです。

でも社長に対して、それをそのまま出せる人は少ない。

なぜなら、社長は答えを持っている人に見えるから。
決める人だから。
強い人でいてほしい存在だから。
その相手に、まとまりきっていない違和感を渡すのは、案外しんどい。

だから、上がってくる頃にはだいたい遅い。
もう限界です、になってから。
退職を考えてます、になってから。
実は前からきつかったです、になってから。

社長はそこで驚くんですよね。
「もっと早く言ってくれたらよかったのに」って。

でも、たいてい順番が逆なんです。
早く言えなかったんじゃなくて、早く言える空気じゃなかった。

ここ、かなり本質だと思います。

本音が上がる会社って、社長がやさしい会社じゃないんです。
社長が“聞く”を雑にやらない会社なんです。

たとえば、聞き方ひとつでも全然違う。

「何かある?」だと広すぎる。
ちゃんとした答えを求められてる感じがする。
でも、
「最近、どこが一番やりづらい?」
「いま現場で、詰まりやすいのって何?」
「この流れ、このままだと後で重くなりそうなところある?」
こういう聞き方だと、少し出しやすい。

答える側も、“正解”を出さなくてよくなるからです。

本音が上がる会社って、
立派な意見が飛び交う会社じゃないんですよね。
未完成な違和感が潰されない会社なんです。

「あれ、何かちょっと変じゃない?」
そのレベルの声が、笑われず、急に結論を求められず、
雑に処理されない。
そこがあると、後で大きな事故になりにくい。

逆に弱い会社は、声が上がらないんじゃない。
上げたくなる前に、みんな編集してる。

このくらいは自分が飲もう。
今それ言う空気じゃない。
社長は忙しいし。
たぶんこう返ってくるし。
そうやって、少しずつ消えていく。

怖いのはここです。
本音がないんじゃない。
本音が“出さないほうが得”になっている。

そうなると、社長はどんどん見えなくなる。
数字しか上がってこない。
整った報告しか来ない。
嫌な予感ほど届かない。
表面は静か。
でも、静かな会社って、安心とは限らないんですよね。

むしろ、よくない兆候のこともある。

本当に強い社長って、何でも聞く人じゃないんです。
ちゃんと受け取れる人です。

耳の痛いことを聞いても、すぐに顔に出しすぎない。
その場で犯人探しに行かない。
正論で押し返さない。
言った人の勇気を、軽く扱わない。
ここがあると、次も少し上がってきます。

逆に、一回でも
「それ前にも聞いたよ」
「でもさ、それって結局どうしたいの?」
「いや、それは現場で解決してよ」
みたいな返しが強く出ると、次から一気に薄くなる。

人って、正しい返事をされたから心を開くわけじゃないんですよね。
ちゃんと受け取られた時に、もう一歩出せる。

社長が組織に与える影響って、方針だけじゃない。
聞いた時の顔。
返した時の温度。
そこでも、かなり会社は決まる。

何でも言ってね。
その言葉が悪いわけじゃないんです。
でも、それで終わると弱い。

本音が上がる会社は、言葉より先に、受け止め方ができてる。
だからみんな、完璧じゃない声でも置ける。
それが結果として、強い組織になる。

社長の仕事って、全部を知ることじゃないのかもしれません。
言いにくいことが消えない状態をつくること。
そっちのほうが、ずっと難しいし、ずっと大事なんだと思います。

あなたの職場では、本音が上がってこないんですか。
それとも、本音が上がる前に、
みんなが先に編集してしまっているんですか?

世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。