「うちの部下は、なかなか動かない」

経営者や上司の口から、よく出る言葉です。

言ったことしかやらない。
自分で考えない。
報告が遅い。
指示待ちになる。
何度言っても、動きが鈍い。

見ている側は、だんだん苛立ってきます。

「もっと主体的に動いてほしい」
「自分の頭で考えてほしい」
「何のために給料を払っていると思っているんだ」
「こっちはそこまで細かく言わないといけないのか」

その気持ちは、よくわかります。

会社は学校ではありません。
仕事は遊びではありません。
お客様もいる。
数字もある。
責任もある。

上司ばかりが考えて、部下がただ待っているだけでは、

組織は前に進まない。

それは事実です。

ただ、一つだけ見落としてはいけないことがあります。

部下が動かない時、本当に部下だけが止まっているのでしょうか。

もしかすると、動くための道が曇っているのかもしれません。

上司の頭の中では、全部つながっている。

なぜ今これをやるのか。
どこまでやるべきなのか。
何を優先すべきなのか。
お客様にどう見られたいのか。
この仕事が会社のどこにつながるのか。

でも、部下の頭の中には、そこまで入っていないことがあります。

入っているのは、作業だけ。

これを送る。
これを入力する。
これを確認する。
これを準備する。
これを報告する。

作業は見えている。

でも、目的が見えていない。

目的が見えていない仕事は、人を動かしません。

ただのタスクになります。

タスクは、言われた分しか進まない。

なぜなら、本人の中に判断基準がないからです。

「ここまでやった方がいいのか」
「これは先に相談すべきなのか」
「これは急ぐべきなのか」
「これはお客様にとって重要なのか」
「これは自分で決めていいのか」

それがわからない。

だから止まる。

止まっているように見えるけれど、

本人の中では迷っている場合もあります。

でも、上司から見ると「動かない」に見える。

ここでズレが起きます。

上司は、「言ったのに」と思う。

部下は、「どこまでやればいいかわからない」と思う。

上司は、「考えればわかるだろう」と思う。

部下は、「何を基準に考えればいいのかわからない」と思う。

この差です。

ある会社で、上司が部下に言いました。

「このお客様、ちゃんとフォローしておいて」

上司の頭の中には、意味がありました。

最近少し反応が薄い。
競合も動いている。
次の更新前に温度を上げたい。
ただ連絡するだけではなく、不満や次の希望も拾ってほしい。

でも、部下に届いた言葉は、

「フォローしておいて」

だけでした。

部下はメールを一通送りました。

「その後いかがでしょうか。何かございましたらご連絡ください」

そして上司は怒る。

「そういうことじゃないんだよ」

部下は困る。

「では、どういうことだったんですか」

こういうこと、現場では本当によくあります。

上司は、背景まで共有したつもりになっている。
部下は、言葉として渡された分しか受け取っていない。

これを繰り返すと、部下はだんだん動かなくなります。

なぜなら、動いたあとに「違う」と言われるからです。

自分なりにやってみた。
でも、上司のイメージと違った。
怒られた。
直された。
結局、上司がやった。

そうなると、次から部下は待ちます。

「勝手に動くより、確認した方がいい」
「どうせ違うと言われる」
「だったら細かく指示をもらってからやろう」

指示待ちの部下が生まれる瞬間です。

でも、それは最初から指示待ちだったのではなく、

指示待ちになるような経験を積んできたのかもしれません。

もちろん、部下にも課題はあります。

聞き返す力。
考える力。
先を読む力。
責任を持つ姿勢。

これは必要です。

でも、上に立つ人は、そこで終わらない方がいい。

「部下の意識が低い」で片づけた瞬間、上司の成長も止まります。

部下が動かない時ほど、自分の伝え方を見る。

これは、かなり大事です。

伝えるというのは、言葉を投げることではありません。

相手が動ける状態を作ることです。

目的を渡す。
背景を渡す。
基準を渡す。
優先順位を渡す。
任せる範囲を渡す。
相談してほしいポイントを渡す。

ここまでして、やっと人は動けます。

「考えて動け」と言うなら、考える材料を渡す必要があります。

材料を渡さずに「考えろ」と言うのは、

地図を渡さずに目的地へ行けと言っているようなものです。

上司の頭の中には地図がある。

でも、部下は手ぶらで立っている。

その状態で「なぜ迷うんだ」と言われても、部下は困ります。

強い上司は、地図を渡します。

細かい道順を全部指示するのではありません。

どこへ向かうのか。
何を見ながら進むのか。
どこで判断するのか。
どこから先は相談するのか。

それを渡す。

すると、部下は少しずつ自分で動けるようになります。

最初から完璧には動けません。

でも、考える場所が見える。

「この仕事は、お客様の不安を先に拾うためなんだ」
「今回はスピードより正確さが大事なんだ」
「ここは自分で決めてよくて、ここは上司に相談するんだ」
「この数字を見て判断すればいいんだ」

こうなると、仕事は作業から判断に変わります。

人が育つのは、この瞬間です。

ただ言われたことをやる人から、目的を見て動く人になる。

ここを育てられない会社は、ずっと人が足りないと言い続けます。

本当は、人が足りないのではなく、

人が育つ伝え方が足りないのかもしれません。

社長にも、同じことがあります。

社長はよく言います。

「もっと危機感を持ってほしい」
「もっと自分ごとで動いてほしい」
「もっと売上を意識してほしい」
「もっとお客様を見てほしい」

どれも正しい。

でも、社員からすると、少し大きすぎる言葉です。

危機感とは、何を見ればいいのか。
自分ごととは、何を任されている状態なのか。
売上を意識するとは、日々の行動で何を変えることなのか。
お客様を見るとは、具体的にどの場面で何に気づくことなのか。

ここまで降ろさないと、言葉が宙に浮きます。

社長の言葉が大きすぎる会社では、社員はうなずきます。

でも、動きは変わりません。

「はい、頑張ります」

この返事だけが増える。

社長はまた言う。

「何度言っても変わらない」

でも、変わらないのは、社員の気持ちだけの問題ではない。

言葉が現場の行動まで降りていない。

ここを見る必要があります。

会社の理念も同じです。

「お客様第一」
「挑戦する組織」
「主体性を持つ」
「感謝を大切にする」
「スピード感を持つ」

きれいな言葉です。

でも、それだけでは動けません。

お客様第一とは、クレームが起きた時に何を優先することなのか。
挑戦とは、失敗した時にどう扱われることなのか。
主体性とは、どの範囲まで自分で決めていいことなのか。
感謝とは、誰にどのタイミングでどう返すことなのか。
スピードとは、品質を落としてでも早いことなのか、

それとも先に共有することなのか。

ここまで見えて初めて、言葉は現場の力になります。

曇った言葉のままだと、人は動けません。

部下が動かない会社は、伝え方が曇っている。

これは、部下を甘やかす言葉ではありません。

上に立つ側への厳しい問いです。

自分は、本当に相手が動けるように伝えているか。

「わかるでしょ」で済ませていないか。
「前にも言った」で終わらせていないか。
「普通はこう」で押し切っていないか。
「考えて動け」と言いながら、

考える基準を渡していないのではないか。

ここを見る。

見られる上司は、強いです。

自分の伝え方を疑えるからです。

弱い上司ほど、部下のせいだけにします。

強い上司は、部下の課題と自分の伝え方を分けて見ます。

ここは部下が学ぶところ。
ここは自分の説明が足りなかったところ。
ここは仕組みが曖昧だったところ。
ここは任せる範囲がぼやけていたところ。
ここは確認のタイミングを作るべきだったところ。

そうやって、現場を整えていく。

これは、かなり地味な仕事です。

でも、こういう地味なところに組織の強さが出ます。

部下が動く会社は、勢いだけで動いているわけではありません。

目的が見えている。
基準が共有されている。
任される範囲がある。
相談できる空気がある。
失敗した時に、責めるだけで終わらない。

だから動ける。

社員が勝手に優秀になるのを待っている会社は、伸びにくい。

社員が動ける構造を作る会社は、少しずつ強くなる。

これは、新人教育でも同じです。

新人に「考えて動いて」と言う前に、まず何を見るべきかを教える。

お客様のどんな表情を見るのか。
先輩のどんな段取りを見るのか。
ミスが起きやすい場所はどこか。
報告はどのタイミングでするのか。
わからない時は、何を整理して聞くのか。

ここを渡さずに「気を利かせて」と言っても、新人は動けません。

気が利く人に見える人は、実は見るポイントを知っている人です。

その見るポイントを教えるのが、育てる側の仕事です。

人が動かない時、すぐにやる気の話にしない方がいい。

やる気がないのか。
目的が見えていないのか。
基準が曖昧なのか。
任されていないのか。
怖くて動けないのか。
動いても評価されない空気なのか。

ここを分ける。

分けると、打つ手が変わります。

ただ怒るだけではなくなる。
ただ励ますだけでもなくなる。
ただ「主体的に」と言うだけでもなくなる。

伝え方を変える。
任せ方を変える。
確認の仕方を変える。
基準の見せ方を変える。
失敗の扱い方を変える。

こうやって、組織は少しずつ動き出します。

人は、動きたくないわけではないことがあります。

動き方が見えていない。
動いた先で怒られるのが怖い。
自分の判断に自信がない。
何を大事にすべきか見えていない。

そこに光を当てるのが、上司の仕事です。

部下が動かない時ほど、上に立つ人の器が試されます。

責めるのは簡単です。

「最近の若い人は」
「うちの社員は」
「もっと考えてほしい」
「意識が低い」

そう言えば、一瞬気持ちは楽になる。

でも、現場は変わりません。

変えたいなら、見る場所を変えることです。

人を責める前に、流れを見る。
意識を問う前に、目的を渡す。
やる気を疑う前に、基準を共有する。
動かないと嘆く前に、動ける設計になっているかを見る。

ここに戻れる人は、マネジメントが一段上がります。

部下が動かない会社は、伝え方が曇っている。

曇りを晴らすのは、上に立つ人の仕事です。

あなたのチームで「動かない」と感じる人は、

本当にやる気がないのでしょうか?


それとも、動くための目的や基準が

まだ見えていないだけでしょうか?

世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。