「任せたはずなのに、結局自分で見ている」

そういうこと、ありませんか。

最初はちゃんと任せるつもりだった。
「今回はあなたにお願いするね」と言った。
相手も「分かりました」と受け取った。

でも、途中で気になってくる。

進んでいるかな。
変な方向に行っていないかな。
お客様に失礼なことをしていないかな。
期限、ちゃんと間に合うかな。

気づけば、チャットを開いている。
「今どんな感じ?」と聞いている。
送られてきた途中経過を見て、少し不安になる。
結局、細かく口を出す。

そして最後には、自分で直している。

これ、管理職でも社長でも、本当によくあります。

任せたい気持ちはあるんです。
でも、任せきるのは怖い。
失敗されたら困る。

お客様に迷惑をかけたくない。
自分が後から謝るくらいなら、最初から見ておいた方がいい。

その感覚は、すごく自然です。

ただ、ここで一つだけ見落としやすいことがあります。

任せるというのは、放っておくことではありません。
でも、ずっと横で見張ることでもありません。

任せるのがうまい人は、手を離す前に、
失敗しても戻れる範囲を決めています。

ここが曖昧なまま任せるから、怖くなるんです。

たとえば、部下にお客様対応を任せる。
でも、どこまで自分で返していいのかが決まっていない。
どんな内容なら上司に相談するのかも曖昧。
金額の話、謝罪の話、納期の話。
全部がその場の空気で決まっている。

これでは、任された方も怖いです。

自分で判断したら怒られるかもしれない。
でも確認しすぎたら、主体性がないと言われるかもしれない。
どっちに転んでも不安が残る。

だから結局、確認が増えます。

「これ、返していいですか?」
「この言い方で大丈夫ですか?」
「一応、見てもらっていいですか?」

上司はそれを見て、
「まだ任せられないな」
と思う。

でも本当は、相手が未熟だから確認しているとは限りません。
失敗していい範囲が分からないから、確認しているだけかもしれないんです。

任せる前に必要なのは、信じる気持ちだけではありません。
線引きです。

ここまでは自分で決めていい。
ここから先は相談してほしい。
この金額までは任せる。
この条件を超えたら止める。
このトーンは守る。
この約束だけは勝手にしない。

こういう線があると、任された側は動きやすくなります。

線があるから、安心して考えられる。
線があるから、失敗しても戻れる。
線があるから、上司も必要以上に口を出さずに済む。

任せることが下手な人ほど、
この線を引かないまま「任せた」と言ってしまいます。

そして、相手の動きが少しでも不安になると口を出す。
口を出された相手は、自分で考えるのをやめる。
考えなくなるから、また任せられない。
また上が抱える。

この繰り返しです。

社長にも、同じことがあります。

幹部に任せたい。
管理職に現場を見てほしい。
でも、最終的には全部自分のところに戻ってくる。

「一応、社長に確認してから」
「社長ならどう判断しますか」
「この件、社長が決めた方がいいと思います」

そのたびに社長は思います。

いつまで自分が決めるんだろう。
もっと考えて動いてほしい。
自分がいなくても回るようにしたい。

でも、もしかすると社員は、社長の判断を待っているのではなく、
社長がどこまで任せているのか分からないだけかもしれません。

任せるとは、相手を試すことではないんです。

「これくらいできるだろう」と投げて、できなかったら失望する。

「任せたのに」と言って、あとから細かく直す。
これでは、人は育ちません。

任せるとは、相手が自分で考えられる場所を作ることです。

そのためには、最初に少し面倒な会話が必要です。

今回の目的は何か。
どこまで任せるのか。
どこから相談なのか。
失敗した時は、誰がどう戻すのか。
絶対に守るラインはどこなのか。

この会話を飛ばしてしまうと、任せる側も任される側も苦しくなります。

管理職から一段上に上がる人は、ここが変わっていきます。

自分ができることを増やすだけではなく、人ができる範囲を広げようとする。
自分で正解を出すだけではなく、相手が判断できる場所を作ろうとする。
自分が安心するために管理するのではなく、相手が迷いすぎないために線を引く。

この違いは大きいです。

任せる力がある人の周りでは、人が少しずつ前に出てきます。
最初は小さな判断からです。
メールの返し方。
お客様への確認。

納期の調整。
ちょっとした改善案。

その小さな判断を重ねるうちに、人は少しずつ頼もしくなっていきます。

逆に、任せると言いながら細かく握り続ける人の周りでは、
人は慎重になります。

どうせ最後に直される。
どうせ確認しないと怒られる。
どうせ自分で決めても覆される。

そう感じた瞬間、人は前に出なくなります。

だから、任せる力は、ただのマネジメント技術ではありません。
会社の中に、考えて動ける人を増やす力です。

全部を任せる必要はありません。
いきなり大きな仕事を渡す必要もありません。

まずは、小さくてもいい。

ここまでは自分で決めていいよ。
ここで迷ったら相談して。
ここだけは守ってくれたら、やり方は任せる。

その一言で、人の動き方は変わります。

任せることが怖いのは、相手を信じていないからだけではありません。
戻れる範囲が見えていないから怖いんです。

最近あなたが「任せた」と言った仕事には、相手が安心して判断できる線がありましたか。
それとも、任せたつもりで、ただ不安を相手に渡していただけでしたか?

世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。