経営者として事業をやっていく中で、常に意識しておきたいのが「周期」です。

どんなビジネスにも「導入」「成長」「成熟」「衰退」というサイクルがありますが、
私が多くの経営者を見ていて感じるのは、この周期を頭では理解していても、
実際に「今どの段階にいるか」を正確に捉えて行動できる人は少ない、ということです。

なぜでしょうか? 理由は明確です。
それは、周期を意識する上で一番重要な要素、「撤退ライン」を明確に持っていないからです。

導入期や成長期は誰でも楽観的になれます。
ビジネスが伸びている時期は、多少の失敗があっても勢いで乗り切れる。
しかし成熟期に入り、そして衰退期が迫ったとき、本当の経営力が問われる。
多くの経営者は、この転換点で感情に流されてしまいます。
「まだいける」「もう少し頑張ろう」と曖昧な判断を繰り返してしまうんです。

本当は「ここまで来たら撤退だ」と線を引いていればいいのですが、
それを曖昧にしていると、ずるずると事業を続けてしまいます。
資金を投入し続け、
時間を浪費し、
心身ともに疲弊していく。
そして気づいたときには、もう引けなくなっている。

だからこそ、ビジネスの周期に合わせて、
あなたが経営者として持つべき最も重要な概念、
それが「撤退ライン」なんです。

明確な撤退ラインを持っている人は、事業の衰退期を迎えても焦りません。
静かに数字を見つめ、感情ではなく事実を軸に判断できます。
「撤退ラインまで達していないなら、もう少し粘ろう。
ラインを超えたなら、潔く引こう」と、ブレない判断ができるのです。

その結果、社員や家族にも安心感を与えることになります。
「社長がどの状況になっても感情に振り回されない」と社員が感じることで、安心して提案できる環境が生まれます。
自分の判断基準が明確な経営者には自然と良い情報が集まる。
周りが力を貸したくなる空気が漂います。

また、お金の動きも変わります。
撤退ラインを持っている人は、無駄な支出を抑え、次の事業のための資金をしっかりと守りきれる。
資金がなくなるまで引きずらず、適切なタイミングで次の投資に資金を回せるからです。

では、こうした理想の未来に進むために、具体的に何をすべきでしょうか?
まず一つ目は、今の自分の事業がどの周期にいるのかを「明確に言語化」することです。

導入期なのか、成熟期に差し掛かっているのか、あるいは衰退期に片足を踏み入れているのかを客観的に見極める必要があります。

二つ目は、事業周期ごとに撤退ラインを明確に設定することです。
成熟期に入ったら利益率や顧客数の減少など、具体的な数字で基準を決めておく。これにより、周期の転換点での判断を感情に左右されずに済むようになります。

三つ目は、撤退の行動計画まで事前に作っておくことです。
実際にラインを超えたとき、誰がどのような行動を取るのかまで決めておくと、いざという時に迅速に動けます。これができれば、ダメージを最小限に抑えて次に繋げられるでしょう。

しかし、ここで問われるのは、経営者の「覚悟」です。
その覚悟を支える情動レバーが何かと言えば、まずは「誇り」です。
明確な基準を持ち、潔く撤退する経営者は、自分自身にも社員にも誇れる存在になるでしょう。感情に流されず、冷静に次の一手を打てる姿こそ、経営者としての本当の誇りなのです。

そして、「使命感」も欠かせません。
社員や家族の人生を預かっているという使命感があるからこそ、情に流されるのではなく、きちんと線を引き、撤退すべきタイミングを逃さない判断ができるのです。

最後に待っているのが「解放感」です。
周期を正確に捉え、撤退ラインを明示している経営者は、常に自由です。状況が悪化したときに焦らず、心の平静を保てる。これこそが、撤退ラインを持つ最大のメリットでしょう。

では改めて、あなたに問います。
あなたの会社は今、ビジネスの周期でどの段階にいますか?
導入、成長、成熟、それとも衰退?
そして、その周期に合わせて撤退ラインは明示されていますか?

この問いに正直に向き合い、撤退ラインを言語化してください。
その一歩が、あなたの経営を次のレベルに引き上げる最も確かな道となるでしょう。