部下が育たない。
何度言っても伝わらない。
任せるとズレる。
細かく見ると嫌がられる。
放っておくと危ない。
で、結局また自分でやる。

管理職になると、この感じ、ありますよね。

最初は「どう教えたら伝わるんだろう」と考えるんです。
次に「この子の理解力の問題かな」と思い始める。
そのあと「最近の子は難しい」に少し寄っていく。
最後は、自分でやったほうが早い、になる。

この流れ、ものすごく多いです。

でも、ここで一回止まって見たほうがいいことがあるんです。
本当に相手が悪いのか。
それとも、自分の中にある“正解の形”を、
そのまま相手に着せようとしていないか。

マネジメントが苦しくなる人って、
仕事ができない人じゃないんですよね。
むしろ逆です。
自分で成果を出してきた人ほど苦しくなる。

なぜか。

自分の中に、うまくいく型があるからです。
段取り。
優先順位。
人への頼み方。
確認のタイミング。
報告の温度。
言葉にしていないけど、体に入っているものがある。

それ自体は強みです。
その人をここまで運んできたものだから。

でも、その強みがそのままマネジメントに持ち込まれると、
急に重くなることがある。

「なんでそこ先に見ないの?」
「普通ここ確認するよね」
「そこは言われなくても気づいてほしい」
口に出していなくても、内心こうなっていく。
で、部下のやり方を見るたびに、微妙にイラつく。

本人はちゃんと育てようとしてるんです。
でも実際にやっていることは、“できる自分の再現”だったりする。

ここがズレる。

人を育てるって、相手を自分と同じ形にすることじゃないんですよね。
でも苦しくなっている上司ほど、知らないうちにそれをやっている。

たとえば、同じゴールに向かうのに、部下は部下なりの順番で考えている。
少し遅いかもしれない。
少し不器用かもしれない。
でも、最終的には行ける可能性がある。

その途中で上司が我慢できなくなるんです。
違う。そうじゃない。
まずこれやって。
そこ飛ばさない。
いや、だから先に確認して。
一回貸して。私がやるから。

これ、現場ではよくあります。
気持ちも分かる。
期限もある。
失敗されたくない。
取引先も絡む。
チームにも迷惑がかかる。
だからつい手を出す。

でも、ここでずっと“自分の正解”を着せ続けると、
部下は二つに分かれます。

一つは、考えなくなる人。
言われた通りにやるほうが安全だと学ぶ。
怒られない形を探すようになる。
自分で判断しなくなる。

もう一つは、離れていく人。
この人の下にいると、自分で仕事している感じがしない。
そう思って、静かに心が離れる。

どっちに転んでも、上司は苦しいです。
前者だと、いつまで経っても育たない。
後者だと、任せられそうな人から消えていく。

でも原因は、相手の資質だけじゃないことが多い。

上司が見ている“できる人”の定義が狭いんです。

自分みたいに気づける人。
自分みたいに詰められる人。
自分みたいなテンポで返せる人。
自分みたいに空気を読める人。

このへんが無意識に入っていると、かなり危ない。
なぜなら、それは基準じゃなくて好みだからです。

マネジメントに必要なのは、好みじゃなくて基準なんです。

どんなやり方でも、ここを満たせばいい。
ここだけは外してはいけない。
ここまでは任せる。
ここからは相談してほしい。
この線が見えている上司は、部下にやり方を返せる。

でも苦しくなっている上司ほど、その線が曖昧です。
代わりに、「私ならこうする」が強い。
だから相手も苦しい。

これ、部下側もきついんですよね。

頑張っている。
考えている。
でも出すたびに、少し違う顔をされる。
完成度じゃなく、その人の好みに合わせにいく仕事になってくる。
そうなると、仕事じゃなくて機嫌取りに近くなる。

地味に削れます。
かなり。

で、上司は上司で「なんで主体性がないんだろう」と悩む。
いや、出した主体性を毎回上から塗り直されたら、
そりゃ出なくなるんです。

ここでよくある勘違いが一つあります。

部下を自由にさせることが、任せることだと思っている人がいる。
逆に、細かく教えることが育成だと思っている人もいる。
でも実際は、そのどちらでもない。

必要なのは、目的をそろえることなんです。

この仕事で何を守りたいのか。
何ができれば合格なのか。
どこを見て判断するのか。
そこが共有されていれば、やり方は少し違っても進める。
逆に、そこがないと、やり方だけ真似させても育たない。

目的が抜けると、人は形にしがみつくんですよね。

上司は、自分の成功パターンにしがみつく。
部下は、怒られない振る舞いにしがみつく。
そうすると、チーム全体がだんだん窮屈になる。

会議でも出ます。
上司の顔色を見て、正しそうな意見だけ出る。
報告も、結論だけ整えて持っていく。
途中の違和感や、未完成のアイデアが消える。
一見まともです。
でも、かなり弱い組織です。

経営でも同じです。

社長が優秀な会社ほど、この罠があります。
自分で事業をつくってきた。
営業もできる。
採用も見る。
数字にも強い。
だから、だいたい自分が一番分かっている。
実際、その通りな場面も多い。

でも、その強さがそのまま組織運営に入ると、人が育たなくなる。
幹部にも、自分と同じ角度、自分と同じ熱量、
自分と同じ精度を求め始める。
で、「なんでそこまで見えないの?」となる。

見えていないんじゃないんです。
見ている景色が違うだけなんです。

そこを無理に揃えようとすると、会社が一人の拡張版みたいになっていく。
それだと限界が来る。
社長が止まると全部止まる。
よくある形です。

本当に強い上司とか、本当に強い経営者って、
自分の正解を持っていない人じゃないんです。
むしろ強く持っている。
ただ、それをそのまま人に着せない。
ここが違う。

この人は何を見ているのか。
どこでつまずくのか。
何なら伸びるのか。
その人の地図を見ようとする。
そのうえで、外してはいけない線だけは渡す。

これができる人のチームは、少しずつ厚くなるんですよね。
遅く見える時期もある。
でも後で効いてくる。
人が自分の頭で動き始めるから。

マネジメントって、答えを渡す仕事だと思われがちです。
でも本当は、相手が自分の足で立てるように、
基準だけを渡す仕事なんだと思います。

そのためには、上司の側が一回、
自分の成功体験から少し離れないといけない。
ここが難しい。
自分を捨てるわけじゃない。
でも、自分のやり方だけが正解だと思っているうちは、人は育たない。

部下が育たないとき、能力の話に行く前に、一回見たほうがいいんです。
自分は基準を渡しているのか。
それとも、自分のやり方を着せているだけなのか。

この違い、かなり大きいです。

あなたが誰かを「育たない」と感じた最近の場面、
本当に相手の問題でしたか。
それとも、自分の正解を着せていただけでしたか?

世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。