「そろそろ人を増やさないと無理ですね」
忙しい会社では、わりと自然に出てくる言葉です。
現場が回っていない。
返信が遅れている。
納品も詰まっている。
社長も管理職も、ずっと何かに追われている。
そうなると、原因は人手不足に見えます。
もう一人いれば楽になる。
誰か入れば、現場が回る。
採用すれば、この苦しさは抜けられる。
そう思いたくなる気持ちは、すごく分かります。
実際に、人が足りない場面もあります。
一人で三人分を抱えているような状態なら、増員は必要です。
でも、中小企業ではよくあるんです。
人を増やしたのに、なぜか楽にならないことが。
新しい人が入った。
教える時間が増えた。
確認することも増えた。
誰が何を持つのか曖昧なまま、仕事だけが増えた。
結果、前より忙しくなる。
「人を増やしたのに、なんでこんなに大変なんだろう」
その時に見た方がいいのは、人数ではなく役割かもしれません。
会社が伸びない時、足りないのは人手ではなく、役割の設計であることがあります。
たとえば、営業担当がいる。
でも、見積もりも作る。
納品後のフォローもする。
請求の確認もする。
クレームが来たら最初に受ける。
社長への報告資料も作る。
本人は頑張っています。
まじめに動いている。
お客様のことも見ている。
でも、その人が何の役割なのかが、だんだん分からなくなっていく。
営業なのか。
事務なのか。
顧客対応なのか。
現場管理なのか。
社長の補佐なのか。
全部少しずつ持っている。
だから、どれも中途半端に重い。
こういう状態で人を増やすと、新しく入った人も同じ沼に入ります。
「とりあえず、できることからお願いします」
「慣れてきたら色々任せます」
「うちはみんなで助け合う感じなので」
聞こえは悪くありません。
むしろ、小さな会社らしい温かさもあります。
でも、その言葉の中に役割の曖昧さが隠れていることがあります。
何を任せるのか。
どこまで決めていいのか。
誰に確認するのか。
何を持ったら成果なのか。
ここが曖昧なまま入社すると、人は動けません。
そして、動けない人を見て、こう言ってしまう。
「主体性がない」
「指示待ちだ」
「もっと自分で考えてほしい」
でも、本当は自分で考えるための枠がないだけかもしれないんですよね。
中間管理職も、ここで苦しくなります。
上からは「現場を回して」と言われる。
下からは「誰が決めるんですか」と聞かれる。
社長からは「もっと任せていいよ」と言われるけれど、
どこまで任せていいかは決まっていない。
結局、自分が間に入る。
確認する。
調整する。
拾う。
謝る。
直す。
そして、管理職だけがどんどん忙しくなる。
本人の能力が低いわけではありません。
ただ、役割の線が引かれていない場所では、
真面目な人ほど全部を拾ってしまうんです。
会社がまだ小さいうちは、それで何とかなります。
人も少ない。
顔も見える。
社長が一声かければ動く。
誰かが抜けても、みんなで埋める。
それが良さでもあります。
でも、会社が少し大きくなってくると、
同じやり方が重くなります。
「誰でも何でもやる」が、最初は強みだった。
でも、いつの間にか「誰が何を持っているのか分からない」に変わる。
ここが怖いところです。
役割を決めるというと、冷たい感じがするかもしれません。
小さな会社なのに線を引きすぎると、助け合いがなくなる気もします。
でも、本当にそうでしょうか。
役割があるから、助け合えることもあります。
本来誰が持つ仕事なのかが分かっているから、手伝える。
責任者が分かっているから、相談できる。
判断する人が見えているから、仕事が止まらない。
役割がない助け合いは、やさしさに見えて、
だんだん誰かの我慢になります。
できる人が拾う。
気づく人が動く。
断れない人に寄っていく。
そして、まじめな人から疲れていく。
これ、現場ではかなり起きています。
社長は「みんなで協力してほしい」と思っている。
管理職は「現場を止めたくない」と思っている。
社員は「迷惑をかけたくない」と思っている。
誰も悪くない。
でも、役割が曖昧なままだと、善意だけが消耗していきます。
人を増やす前に、一度見た方がいいんです。
今ある仕事は、誰の役割なのか。
その人は、何を決めていいのか。
どこから先は相談なのか。
何ができたら、その役割を果たしたと言えるのか。
ここが見えるだけで、採用の意味も変わります。
ただ人を増やすのではなく、どの役割を増やすのかが分かる。
ただ忙しいから採るのではなく、どこに空席があるのかが分かる。
ただ「いい人」を探すのではなく、
「この仕事を任せる人」を探せるようになる。
採用は、人数合わせではありません。
会社の形を整えることです。
だから、人が足りないと感じた時ほど、すぐに求人を出す前に見てほしい。
本当に足りないのは、人ですか。
それとも、誰が何を持つのかという線ですか。
線がないまま人を増やすと、混乱も一緒に増えます。
でも、役割が見えた状態で人を増やすと、会社は少しずつ軽くなります。
忙しい会社ほど、人手不足に見えます。
でも、よく見ると役割不足だったりする。
最近あなたの会社で「人が足りない」と感じた場面。
それは本当に人数の問題でしたか。
それとも、誰が何を持つのかが曖昧なまま、
善意で回していただけでしたか?
世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。