「社長が言っていたので」

この言葉は、便利です。

方針を伝える時も使える。
少し厳しいことを言う時も使える。
現場から反発が出そうな時も、盾になる。

「会社の決定だから」
「上がそう言っているから」
「決まったことなので」

そう言えば、自分の責任ではないように見える。
現場も、完全には反論しにくい。

でも、この言葉を使い続けると、
管理職は少しずつ自分の言葉を失っていきます。

現場は、意外と見ています。

この人は、自分の言葉で話しているのか。
それとも、上から降りてきた言葉をそのまま運んでいるだけなのか。

同じ方針を伝えていても、受け取られ方はまったく違います。

たとえば、社長が新しい取り組みを決めたとします。

現場からすれば、また仕事が増える。
今でも忙しい。
なぜ今それをやるのか、正直分からない。

その時、管理職がただ、
「社長が決めたのでやります」
と言ったら、現場は動くかもしれません。

でも、心は動きません。

言われたからやる。
決まったからやる。
怒られないためにやる。

この空気になります。

一方で、管理職が少しだけ自分の言葉を添えたらどうでしょう。

「正直、今の現場が忙しいのは分かってる。
だから全部を一気に変えるのは無理だと思う。
ただ、今のままだと毎回同じ確認で止まっている。
まずはそこだけ減らしたい」

この言葉なら、現場は少し聞けます。

会社の方針をそのまま押しつけているのではなく、
現場の現実も見たうえで話しているからです。

自分の言葉で伝えるというのは、
かっこいいことを言うことではありません。
立派なスピーチをすることでもありません。

上の意図と、現場の現実を、自分の中で一度通してから話すことです。

ここを飛ばすと、言葉が軽くなります。

「主体的に動こう」
「スピード感を持とう」
「顧客目線で考えよう」
「もっと危機感を持とう」

どれも間違っていません。
でも、そのまま現場に落とすと、標語のように聞こえることがあります。

現場が聞きたいのは、きれいな言葉ではなく、
「で、私たちは明日から何を変えるのか」
ということです。

そしてもう一つ、
「この人は、それを自分の言葉として言っているのか」
ということです。

管理職が自分の言葉を持っていないと、
現場は社長の方だけを見るようになります。

何かあれば、管理職を飛ばして社長の意図を探る。
管理職の話を聞いても、「結局、社長はどう思ってるんですか」となる。
管理職は間にいるのに、信頼の中心にはなれない。

これは、本人にとっても苦しいです。

上からは伝えろと言われる。
下からは本音で受け取ってもらえない。
自分は確かに忙しく動いているのに、ただの伝達役のようになっていく。

そうなると、管理職の仕事はどんどん疲れるものになります。

でも、自分の言葉を持ち始めると、少し変わります。

現場に対して、ただ上の方針を下ろすのではなく、
「自分はこの方針をこう受け取っている」
と話せるようになる。

社長に対しても、ただ現場の声を運ぶのではなく、
「現場ではこう受け取られています。だから伝え方を変えた方が動きやすいです」
と言えるようになる。

この時、管理職はただ挟まれている人ではなくなります。

会社の言葉を、仕事に変えている人になります。

もちろん、自分の言葉で話すのは怖いです。

言い方を間違えたらどうしよう。
社長の意図とズレたらどうしよう。
現場に甘いと思われたらどうしよう。
余計なことを言ったと思われたらどうしよう。

その怖さはあります。

でも、何も自分の意見を強く主張しろという話ではありません。

大事なのは、借り物の言葉だけで終わらせないことです。

「会社としてはこう決まった。自分はこう理解している。
現場ではまずここから変えたい」

このくらいでいいんです。

そこに、その人の責任が少し乗ります。
その責任が乗った言葉を、現場は聞いています。

社長や幹部にとっても、自分の言葉で話せる管理職は貴重です。

なぜなら、その人は上に従うだけではなく、
現場に届く形を考えられるからです。
現場の機嫌を取るだけでもなく、
会社の方向を自分なりに引き受けようとしているからです。

こういう人が増えると、組織の空気は変わります。

社長の言葉が上から落ちるだけではなくなる。
現場の声が下から漏れるだけでもなくなる。
間にいる人たちが、自分の言葉でつなぎ始める。

その時、会社の中に血が通い始めます。

方針は、伝達されただけでは動きません。
誰かが自分の言葉にして、現場の行動に変えた時に、初めて動き出します。

管理職の言葉は、ただの説明ではありません。
現場がその方針を信じられるかどうかに関わります。

だからこそ、上から来た言葉を、そのまま渡して終わらせない。
自分はどう受け取ったのか。
現場にとって何が変わるのか。
どこから始めるのか。

そこまで添えられる人がいると、
会社の言葉は少しずつ生きたものになります。

自分の言葉で伝える人は、目立たないかもしれません。
でも、その人がいるだけで、組織の温度は変わっていきます。

世の中の非常識は、華僑の常識。
華僑Jでした。